イタリア田園のバカンス-アグリツーリズモ ①

■人気のバカンス、アグリツーリズモ

イタリアではそろそろバカンスシーズンに突入します。
今年の夏の人気デスティネーションはどの地域なのでしょうか?
ちなみにイタリア20州のうち昨年の人気ベストテンは、
第1位がトスカーナ州でした(イタリアの商業者団体Confesercenti
「イタリアの2006年夏バカンス動向調査」より)。
二位以下はシチリア、サルデーニャ、プーリアと続きます。
この三つの州はいずれも美しい海で名高いところですから、
相変わらずイタリアの夏のバカンスの過ごし方では”海辺でのんびり”がダントツの地位を誇っているようです。

シエナ近郊のアグリツーリズモ

けれども2005年は三位だったトスカーナが一位となったことや、
5位にエミリア・ロマーニャが、7位のリグーリアを挟んで8位にトレンティーノ・アルト・アディジェが入っていることからも、バカンスのもうひとつの人気滞在地が内陸の田園地帯、あるいは山間部にあることも確かなことです。その山間部や田
園地帯に出かけた人たちの多くは、アグリツーリズモに滞在したと思われます。なぜならそれほど、近年のアグリツーリズモの人気には目覚しいものがあるからです。

■アグリツーリズモとは

アグリツーリズモは1960年代にイタリア北部の農家の主婦が、農閑期の副業として旅行者を泊めたのが始まりです。80年代には自然回帰志向などで人気となり、85年にはアグリツーリズモ法ができました。法律は、農業収入が全体の70%以上である等の条件を課すことにより、人気に便乗した他業種からの参入を防ぎ、税制優遇で農家を保護し、同時に提供する食材は地元のものだけを利用することなどの規制によって、利用者にとってのサービスの質の確保を図ったもののようです。

 

アッシジ近郊のアグリツーリズモ

 

もちろん建物の修復・増改築には厳しい制約が設けられ、歴史的な建造物や自然環境・景観に充分配慮したものでなければ許可がおりません。これらの法規制によりアグリツーリズモの質が保たれ、レベルの高い施設が登場し、それが利用者に支持され、さらに人気を呼ぶ、という相乗作用が働いたためでしょうか、98年には7500軒と報告されているイタリアのアグリツーリズモの数は、2005年には1万3,500軒にまで増えたとも聞いております。

 

私が初めてアグリツーリズモに泊まったのは1998年、10月の終わりのことでした。当時、モンテプルチアーノというワインで有名な南トスカーナの丘の上の小さな街に、三週間ほど滞在していたのです。イタリア専門の旅行会社設立に向けての準備のためでした。かねてからアグリツーリズモが気になっていた私は、このときも情報を集めていたのですが、その中に、街のインフォメーションでもらった、カラー写真が添えられた200ページにも及ぶアグリツーリズモのパンフレットがありました。驚いたのは、各ページに2軒づつ紹介された、つまり全部で400軒近くにも登るアグリツーリズモが、すべて小さなシエナ県だけのものであったことです。
 
この時一泊だけ滞在したのはシエナ近郊の小規模なアグリツーリズモでしたが、実はここは10月から3月にかけては閉めてしまう、しかも滞在は一週間単位でしか受け付けていないところでした。好意から(あるいは好奇心から?)受け入れてはみたものの、本当にやってくるのか半信半疑だったのでしょう、夜も遅い時間にタクシーでやってきた客を前に、人のよさそうなオーナー婦人は、なかなかお見えにならないので心配していたと、安堵の表情を浮かべました。この頃はまだ訪れる日本人も少なく、アグリツーリズモに夜やってきて翌朝帰ってしまう客など、前代未聞だったのかもしれません。

アグリツーリズモには二つのタイプがあります。寝室とキッチンとバスルームが備わったアパート(レジデンス)タイプと、ホテルのように部屋だけを提供するものです。前者には暖炉のあるリビングが付いている豪華なものあり、後者はほとんど朝食をつきであることから、B&Bタイプと呼ばれています(両方のタイプを備えたアグリツーリズモもあります)。

このとき友人を交えた私たち5名が案内されたのは、母屋とは反対側の建物の二階の、3ベッドルームを備えたアパートタイプの一軒でした。部屋に入ると、セントラルヒーティングでアパートの全体が暖められ、アーチを描く窓が並ぶリビングはアンティークな家具で整えられ、晩秋の夜の冷気に冷え切った身体と、真っ暗な砂利道をタクシーに揺られて不安を感じていた気持ちが、一気にほっと緩んだのを覚えています。

(この記事は、2007年6月に JAPAN-ITALY Business On-line に掲載されたものです/竹川 佳須美

②に続く

 

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