南イタリアが面白い! ナポリを歩く①~紀元前の大通りスパッカ・ナポリ

あいかわらず南イタリアが人気です。
もちろん、ポンペイと青の洞窟はずっと変わらぬ定番スポットですが、
それを追う勢いなのがアマルフィ海岸とアルベルベッロ。
どちらも独自の歴史を誇る、なのにこじんまりとしたかわいらしい街です。
明るい光に満ちた個性的な街並みに色彩豊かなマヨルカ焼き、
カラフルな野菜たっぷりの郷土料理、人懐こい笑顔などなど、
数えきれない魅力に人々の賛辞がやみません(映画の影響も外せませんが)。

通り過ぎるだけではもったいないナポリ

それにひきかえ、(当社のお客様のリクエストにも)イマイチ名前があがらないのがナポリです。ゲーテがあれほどほめたたえたのに、彼によって世に出た土地の言い習わし「ナポリを見て死ね」は、今やあまりに有名になりすぎた老いた俳優の趣すら感じさせます。

けれども本来ナポリは、街自体が、ヨーロッパ地中海世界の地理的広がりの中心として、長い長い歴史の積み重なりが凝縮され、それらが混沌と錯綜して、ちょっとやそっとでは捉えきれないほど大きな塊と化した都市なのです。ポンペイやカプリ等への玄関として通り過ぎてしまうのは、ましてバスの車窓観光だけではあまりにもったいない、そんなふうに思っていました。

そんな折、ナポリに関しての観光情報記事の依頼が舞い込み、10本ほど書かせていただきました。せっかくですのでこちらにもその記事を、できれば多少膨らませながらご紹介します。またおすすめどころはナポリ近郊に限らず南イタリアに多数偏在していますので、その他のスポットも書き足していきたいと思っています(遅筆ですが)。

古代ギリシャの上に庶民の街並み スパッカ・ナポリ

ナポリの名前がギリシャ語のネアポリス(新しい町)に由来することからも、この町がギリシャの植民都市だったことがわかります。名前の他にもうひとつ街に残る古代ギリシャを挙げるとすれば、スパッカ・ナポリでしょう(残念ながらギリシャの面影は多く地下に眠っていて、近年地下ツアーは隠れた人気を呼んでいます)。

ギリシャの都市には必ず東西南北に格子状の通りが敷かれるのですが、一番重要な通りが「デクマーノ」(東西道)、それと交差するのが「カルディーネ」(南北道)となります。二本の通りの交わるあたりが街の心臓部というわけです。

イタリア語でスパッカ・ナポリ(真っ二つに割る)と呼ばれる通りが、この、ギリシャ時代の「デクマーノ」です。何故「真っ二つに割る」のかは、丘の上から街並みを眺めるとよくわかります。ナポリ湾に平行にひたすらまっすぐ伸びているこの通り、建ち並ぶ家々をまさに南北に切り分けているのです。

この界隈には、ナポリの見どころが集まっています。ジェズ・ヌオーヴォ広場から歩き始めると、まずは右手にサンタ・キアーラ教会。サン・フランチェスコに帰依したアッシジの聖女に捧げられた教会です。元々の教会は第二次世界大戦の爆撃でほとんど失われてしまいましたが、美しいマヨルカ焼きのタイルで装飾された18世紀のキオストロ(回廊)が残っています。

しばらく行くと、左手にサン・セヴェーロ礼拝堂があります。祭壇の前に横たわっているのが、「ヴェールに包まれたキリスト」。バロックの代表的な彫刻家ベルニーニを思わせる素晴らしい作品です。

サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会を左に折れて少し歩くと、ナポリっ子の心のよりどころとも言うべきドゥオーモ(サン・ジェンナーロ教会)が現れます。この教会では、毎年5月の第一土曜日と9月19日、そして12月16日に、壺に入れられた聖ジェンナーロの血液が液体化する奇跡が起こります(液体化しない年は、ナポリに大災害が訪れると言い伝えられています)。

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写真(時計回り)/ヴェスビオから昇る朝日/丘の上から望むナポリの街並み/上空からのスパッカナポリ(フリー画像から拝借)/サンタ・キアーラ教会の回廊/スパッカ・ナポリ/春から秋まで咲き続ける西洋朝顔

注:スパッカ・ナポリを歩くときは、くれぐれもスリやかっぱらいにご注意ください。洗濯物がはためく庶民的な界隈ですが、観光客をねらう輩がいないとも限りません。夜間はもちろん、あまりひと気のないさびれた横丁や裏通りに足を踏み入れるのは避けましょう。

車にご用心

最初にナポリを訪ねた時は驚きました。道路脇の多重駐車のすごさにです。前後左右をすきまなく他の車に囲まれて、いったいどうやって自分の車を出すのだろうと、ヒトゴトながら心配になりました。プレシーピオ広場は巨大な車置場(もはや駐車場とも思えません)と化し、人間は広場の端から端へと横切るのに、車と車の間のわずかな隙間を苦労してすり抜けていくしかありませんでした。

帰国後、地元の大学の留学生でナポリ出身の女性にこの話をすると「ナポリに法と秩序はないからね」と笑っていました。もう四半世紀も前のことです。

今そのプレシーピオ広場を見ると、そんなナポリはもうどこかへ消えたような、あれは他人よ、といった涼しい顔をしています。でもだからといってナポリが日本の都市並みの街になったと思ってはいけません。

スリやかっぱらいはイタリアの他の観光スポットと同じく要注意ですが、さらに注意が必要なのは、やはり車です。レンタカーの運転でいきなりナポリを走るのはお勧めできません。慣れないロータリーや標識、左ハンドル右側通行という日本と左右が入れ替わる車と道路事情、それに加えて運転マナーの違いが大きいのです。

ひと言でいうとナポリでの運転は、信号だけではなく、左右前後の車を見ながら走る必要があります。そんなの当り前のことではあるのですが、真夜中でも赤信号で律儀に停車するようなことはナポリではない、ということを覚えていてください。これは歩行者も同じです。ですからナポリでは、前方の歩行者についても日本以上の注意を払う必要があります。

ナポリで多くの日本人が困るのが、交通量の多い道路の横断ではないでしょうか。もし横断歩道で信号が青になっでも車が止まらなかったらどうしますか? おそらく途方に暮れるのではないでしょうか。あるいはうんざりして、最後は怒りがこみあげてくるかもしれません。何故ルールを守らないのだ!と。とはいえ、怒っていても渡れませんので、そんなときは手っ取り早く、(横断歩道など関係なく)土地の人の後に付いて渡ることにしましょう。

そして、ナポリっ子の渡り方を観察してください。彼らはまず、渡るぞ、という意志を体全体で表して、向かってくる車のドライバーを見ます。車がスピードを緩め、こちらをしっかり認識していることを確認したうえで、体を前にどんどんと出して行きます。これを体得するのはなかなか難しいかもしれませんが、コツがわかるようになると、横断も楽しくなってきます(ただしこの時、まず左を見て、つぎに右を見てくださいね。日本とは逆ですから)。

イタリアで重要なのは一対一のコミュニケーションですが、なにもそれは言葉によるものだけではない、そしてコミュニケーションはあらゆる場面で行われているというということの、これもひとつの例でしょう。いずれにしろ、バスの窓から眺めているだけでは決して触れることのないナマのイタリアに、こんなところからでも一歩足を踏み入れていただければ、嬉しい限りです。

K.Takekawa

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★サンタ・キアーラ教会:https://www.monasterodisantachiara.com/
 教会/7:30-13:00 16:30-20:00
 コンプレッソ・モニュメンターレ/平日 9:30-17:30 休日/10:00-14:30

★サンセヴェーロ礼拝堂:https://www.museosansevero.it/it/
 平日/9:30-18:30
 旧・祭日/9:30-14:00

★ドゥオーモ:
 月~土曜日/8:30-12:30 16:30-19:00
 日曜日/8:00-13:30 17:00-19:30

◆参考書籍

・イタリア紀行(中)ゲーテ/岩波文庫
・ナポリの肖像 澤井繁男/中公新書
・南イタリアへ! 陣内秀信/講談社現代新書

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